#59 本日のおすすめコーヒー(本)。

一杯淹れて、どうぞ。

【目次】
・しゃべりすぎない物語/『珈琲時間』
・夢の導入/『月とコーヒー』
・(雑談)最近気になっている作家さん
Akane 2022.04.24
誰でも

これを書いているのは、4/20(水)。二十四節気でいうと「穀雨」という、穀物に恵みの雨が降る頃なんだそう。(私の住む東京では本当に雨の日でした🌂)おかげさまで言葉を見てきれいだなぁと思える余裕がでてきましたが、皆さんは今週はどんな1週間でしたか?

セブンの生チョコ(おいしい)をお皿に出すだけでしっかりコーヒータイム感でる☕️

セブンの生チョコ(おいしい)をお皿に出すだけでしっかりコーヒータイム感でる☕️

今週のテーマは「コーヒー」にしました。といっても、コーヒーを淹れるための本とか、美味しい喫茶店の本とかではなく、コーヒーがBGMのように在って、背景ながらその存在が欠かせない物語たち。

コーヒーと甘いものと本は「パーフェクト・トライアングル」と言われ読書家の心を動かしますが、私も例外ではないどころか大好きです。

完全に自分の事情ですが、なんだか慌しい日々が続いていて、ちょっと疲れていたので休息時間を挟もうと「コーヒー」「珈琲」がタイトルに入った本をお届けさせて頂くことにしました。

ということで、今日もゆるやかにお付き合いくださると嬉しいです☕️

***

しゃべりすぎない物語

コーヒーが登場する物語を選ぼうと棚を見た時に、結構たくさんあるな、と思いました。カフェや喫茶店、食堂などを舞台にした物語が好きなのでいつの間にか増えていたようです。(世の中的にも増えているような気もする)

でも、たくさんある「コーヒーの本」の中で私のベストコーヒー本と言ったら、間違いなくこれなんです。

表紙のコーヒーの痕がいい味...

表紙のコーヒーの痕がいい味...

『珈琲時間』は豊田徹也さんが描く、17の短編から成る物語。なんというんでしょう、どこか単館系の邦画の香りがする漫画です。

紹介の冒頭からちょっと話が逸れるんですが、以前、「最近の映画はセリフですべてを説明する作品が増えた」という記事を読みました。短くまとめると「わからない、伝わらないことを避けるために言葉で説明する必要が出てきた。"分かりやすい" が "おもしろい"になってしまってきている」という内容でした。

そういう意味で言うと、『珈琲時間』は「説明しない」漫画です。正直、私も17の短編の中で「これってこういうことなんだろうか...うん、多分、そういうことにしておこう」みたいなものもあります。

最近、本友達と「"分からない読書"っていいよね」って話をしたんです。

「分からない」には2つあって、ひとつは「内容が今の自分には少し難しく感じて解像度高く読めないんだけど、それについていくために頭を使って背伸びしながら読む」ということ、もうひとつは「はっきりと結論が出ていなくて読む人によって捉え方が異なる読書」。で、『珈琲時間』は後者で、その曖昧さが魅力です。分からなきゃいけない、という圧もなくて。

17の短編の中には、ほっこりしたもの、ちょっぴりハードな設定のもの、物悲しいもの、淡々としたもの、などいろいろな種類あります。

私のイチオシは、第3話の「すぐり」という、生豆を焙煎しようとしたときに姪っ子のはるみがやってきて一緒に豆の選別や焙煎をするお話しなんですが、このやりとりが忘れられない。

"人間と同じだね 悪い豆はないほうがいいんだ"
"人と豆とは違うよ"(中略)
"でもおいしいコーヒーつくるには欠点豆ははじくんでしょ"
"うーーーん 何が欠点かって基準はコーヒーほどシンプルじゃないからね 人間は"
"そうかな....."
"シンプルな基準しか許さない社会は脆弱で滅びやすいからね"
『珈琲時間』第3話 すぐり p.34


このあとの焙煎をしながら語られるふたりの話もいいし、はるみがやってきた理由を想像するのも美味しい読み方な気がします。


17つの物語で共通しているのはコーヒーが登場すること。でも、この「すぐり」でもそうだったように、どれもコーヒーの話じゃないんです。あくまで物語のBGMのようにそこに居るだけ。でも、その存在はきっと欠かせなかったから漫画のタイトルはこうなったんだろうな、と思います。

全部語らないことで、少し頭にスイッチが入って目が醒めるような、それでいて心が落ち着くような、まるでコーヒーを飲んでいるような気分になる一冊です。久々に読み返して、「いい本だったな」と思ったのでピンと来た方は是非手にとってほしいなと思います。(ちなみに、読んでよかったと思っていただけたら、豊田さんの『アンダーカレント』もオススメです!)

***

夢の導入

夜のコーヒータイムに一緒にいたいのは、『つむじ風食堂の夜』などで知られる吉田篤弘さんの『月とコーヒー』です。

この本は、主催している「読むしかできない」というイベントにいらしてくださった方が、お持ちくださった本でした。「読むしかできない」は本の部屋で1時間の一人読書を楽しむイベントで、前の予約枠のひとからの選書を受け取り、次の枠のひとへ自分の選書を渡すという選書リレーが特徴です。(前回のレポートはこちら

ハードカバーなのですが、文庫よりちょっと大きいくらいで、手にすっぽりおさまるサイズ。かわいい箱に入れて贈りたいような気持ちになります。

『月とコーヒー』には24の短編が収められていて、ひとつあたりは10ページ程度。そのタイトルや表紙の通り、静かな夜が似合う、心地よく夢の中に誘われる一冊です。

この本もまた、堂々とタイトルに「コーヒー」と書かれていながら、コーヒーの物語じゃないんです。

いつの間にかはじまって、いつの間にか終わる、ある意味の空気感は気を許せる親密な人にしか醸し出せないそれに似ています。なんていうか、読んでいて、全く疲れないと言うか、いい意味で力が抜けていく感じです。

話の音としては、静かで落ち着いているのですが、ほんわり、と言う感じともちょっと違って、音楽で言うと優しい音楽、っていうよりも短調と長調が混じり合う淡々と静かでスローな音楽、というイメージ。

この本もまた先に紹介した『珈琲時間』と同じように「余韻」の本で、終わらせないことの魅力を持っています。その続きを想像する楽しみを私たち読者に残してくれている。物語と言いながら、どこか音楽のようで、これはめちゃくちゃ矛盾した比喩ですが、「目を瞑って読む」ような気持ちの本です。

全く物語の中身に触れない紹介もどうなんだと思いながら、この本はそれがいいような気がしたので、あえて空気だけお伝えして終わります🌙 

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(雑談)最近気になっている作家さん

ここからは雑談です。全然関係ないのですが、雑談って英語だとsmall talkというらしいです。(chatとも言う)

最近気になる作家さんがいまして、その方は「藤井 太洋」さんといいます。レターを読んでくださっている方で知っている方っていますかね?👀 (私はこれまで全然知らなくて、ほんとに最近知りました)

藤井さんはソフトウェア会社で働きながら個人出版した電子書籍『Gene Mapper』がKindleの小説・文芸部門で最多販売数を記録し、これがきっかけで加筆版を出版。エンジニアというバックグラウンドを活かしたSF作品を書かれていて、『ハロー・ワールド』で吉川英治文学新人賞を受賞しています。(塩田武士さんの『歪んだ波紋』と同時受賞。こっちは読んでいた)

吉川英治文学新人賞といえば、直近だと、直木賞候補にもなった加藤シゲアキさんの『オルタネート』や『塞王の楯』で直木賞を受賞された今村翔吾さんの『八本目の槍』、そのほかにも辻村美月さんや冲方丁さんなど前線で活躍する作家さんがたくさん受賞されています。

ということで、早速『ハロー・ワールド』を買ってみたので、面白かったらまたご紹介させてくだい!

みなさんの最近ハマりの作家さんがいたら、マシュマロからメッセージお待ちしています📮(お返事できない仕組みで恐縮ですが、毎週全部ありがたく読んでいます...!ありがとうございます!)

***

ということで、今週はこんなところで👋
来週もみなさんにとって健やかで楽しい1週間でありますように。

次週は長らく気合いをいれて準備をしてきた海外文学に関するレターをお届けする予定です。(本当は今週お届け予定が間に合わなかった( ⚆ ⚆ )のですが、ぜひ読んでほしい...!)

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