#211 職業インタビュー本がスポーツ漫画になる時。

その心は哲学📚
Akane 2025.05.04
誰でも

ゴールデンウィークが始まりましたが、いかがお過ごしですか? 私は初日の朝にお取り寄せのスコーンが届いたので、読書に映画にインドア満喫しようと思います✌️

姫路にある<a href="http://transistorbakery.shop/" target="_blank">トランジスタベーカリーさん</a>のです。この前の通販、2分で売り切れてた...(ネイルが伸びすぎているけど、このGWでちゃんと新しくしました!!!)

姫路にあるトランジスタベーカリーさんのです。この前の通販、2分で売り切れてた...(ネイルが伸びすぎているけど、このGWでちゃんと新しくしました!!!)

GWに読んでいる本は、竜の病を治す"竜の医師団"の医師を目指し奮闘する少年二人の成長物語のシリーズ『竜の医師団』。シリーズは4巻まで出ている中で、私はまだ読み始まったばかりですが、シリーズものの主人公たち成長系というだけでワクワクしちゃいますよね...!読みやすくてサクサク進む系です。

というちょっと気分が上がっている感じではありますが、GW前はなかなか怒涛に仕事をしていました。楽しいしありがたい仕事が多いけれど、詰めすぎたというのがあって、めちゃくちゃ背中丸まってパソコンを見ている自分に気づいて背筋伸ばして、息が止まっていることに気づいて深呼吸して、の繰り返し。

なんか、こう、ゆったりとした空気のものに触れたいぞ......という気持ちで夜に手を取っていた本があったんです。

それが、今回紹介する『らせんの日々』

著者は作家の安達茉莉子さん。安達さんは『私の生活改善運動』という本をきっかけに好きになった作家さんで、半径5メートルの暮らしや日々の描き方が丁寧で、読んでいると落ち着く、でもなんだか新しい風を体の中に送り込んでくれるような作風が魅力です。(『臆病者の自転車生活』もとっても好き)

『私の生活改善運動』は、そのタイトル通り、安達さんが「生活改善運動」をやろうと決め、自分の暮らしを少しずつ改善していく過程が描かれています。

日常において、とても些細なことだけれど、気にかかっていること。タオルやシーツ、ゴミ箱、セーター、靴、本棚……。これでいいやで選んできたもの、でも本当は好きじゃないもの。それらが実は、「私」をないがしろにしてきた。淀んだ水路の小石を拾うように、幸せに生活していくための具体的な行動をとっていく。やがて、澄んだ水が田に満ちていく。――ひとりよがりの贅沢ではない。それは、ひとの日常、ひとの営みが軽視される日々にあらがう、意地なのだ。それが “私” の「生活改善運動」である。

帯の言葉、『「これでいいや」で選ばないこと、「実は好きじゃない」を放置しないこと』は私の三大教訓にもなりました。

しかし大事な帯の文字を指で潰してしまった...

しかし大事な帯の文字を指で潰してしまった...

ちなみに、残りの2つは、

内田樹さんの『困難な成熟』に出てくる「ある選択が適切だったかどうかを判断するときの度量衡(ものさし)はいつでも「生きる力」の増減です」

子どもの頃に家に飾ってあった高橋書店のカレンダーに掲載されていた、どこかの部活の先生の言葉「努力は足し算、協力は掛け算」

です。全部、忙しいとついやっちゃいがちで、忘れがちなこと。「忙しいからこれでいっか」「自分でやればいっか」って。「生きる」の主語が自分だということを、いとも簡単に置いてきてしまうというのは、たぶん多くの人にも起きてることなんかじゃないとも思うんです。だから、誰かが言葉にしてくれると、「そうそうそれ」ってちゃんと覚えられてありがたいなって。

あ、脱線しました。戻りますね。


『らせんの日々』を読もうと思ったのは、安達さんの言葉の空気に癒されたかったのもありますが、どちらかというと、触った感じが良かったから、が一番の理由でした。

物理的な本のいいところに、紙の手触りやそこに乗った色の出方があるなと思っていて、疲れていたからか、なんか頭の中で決めたというより手が決めたというような。触って「いい感じの本だ」と思ったのでふと読み始めたんです。

「あ、安達さんの新刊だ」と作家買いした側面が強く、実は中身をきちんとチェックはしていませんでした。単行本は文庫のように説明書きがないので、まずは開く。開いて「はじめに」的な部分を読んではじめて、この本が安達さんがある場所でのインタビューをした記録だと知ります。

その「ある場所」というのが、京都にある社会福祉法人が運営する様々な福祉施設。インタビュイーは各施設で働く職員の方々です。「安達さんの新刊 = 安達さんの暮らしの描写」といったイメージを持っていたので、正直少し拍子抜けしたような気持ちでページを捲っていきました。

結果的にいうと、ものの1日で読み切りました。なんだろう、不思議な感じ。私は社会というものにはある程度の興味を持ちつつ、福祉に対して、そこまで深い知識がない状態でした。福祉の概念や細かい説明があるわけじゃないんだけれど、お仕事の内容というよりは「空気」がわかった。なんとなくソフト面のイメージが強い福祉業界で「データ」と「エビデンス」をベースに統一した支援をベースに行い、その上に人の持つ「配慮」「気づき」がある、というのも印象的でした。

一つ一つのエピソードが具体的で興味深いのもインタビューならではの特徴。例えば施設を利用している方々の中には誤嚥の危険があるけれど早く食べてしまう方がいて、ゆっくりと食べる方法を考えていたそう。その解決策が「食べ物をお重に綺麗に装う」だったこと。安達さんはそのことを「そんな発明があり得るのか」と書いていました。いい表現!(もちろん、発明ではなく改善という地道な策もたくさん工夫している)

高齢の方も含めた人の支援をするということは、一つのミスが命取りになりかねません。その中で、「危険や怪我から守りたい」と「挑戦を一緒にしたい」という職員の方のせめぎ合いの思いを読んで、本当に難しいところだと思ったんですよね。

安達さんもまた、声を出せなくなったおばあさまの病院で、自分とおばあさまだけの時に「飴が欲しい」と言われたことを思い出すんです。「もしも、この飴が喉に詰まったら」。そう思って渡せなかったという回想は安達さんの過ごした風景とインタビューとが繋がる瞬間でした。きっと、同じように私たちにも普段から出入りしているわけではないその風景が、自分の暮らしにもあることに気がつきます。

『臆病者の自転車生活』もおすすめです

『臆病者の自転車生活』もおすすめです

インタビューの中で、個人的に印象的な方がいました。複数ある施設の中のひとつの施設長を務める、勤続25年の大ベテラン・西田さんです。西田さんは他の多くの職員の方々と違って「たまたま入職」していました。不思議なもので、職場ってそういう人が一番長く勤めていたりするんですよね。

西田さんとのインタビューが始まった安達さんは、西田さんから「柔らかで優しい感じなのに見透かされているよう」と感じます。西田さんが自己紹介のためにいつも使っている「自己紹介のスライド」を見せてくれた時、"職員の気持ちになって震え上がる"のですが(この理由はぜひ本で読んで欲しい。確かに震える)、いる、そういう人はたまにいる。ドキッとしてしまう。

西田さんは穏やかに、

「僕は誰かに理詰めで話したりは絶対にしないです」
「全職員に敬語で話して、『◯◯くん、あれやっといて』とは絶対言わないです」

と語るんですが、これ自体は「方法」で人それぞれ&場それぞれだから、理詰めで話さないことや敬語が正解というわけじゃないと思うけれど、果たしてこの印象的な「絶対」と言い切れるポリシーが自分にはあるだろうか?とふと思ったりしました。(ちなみに「絶対」と強く語る背景には、「職員のストレスが向かう先が自分たちではなくて、利用者さんになってしまうから」というのがありました)

「穏やかつよつよ」な人と思っていた第一印象は、でも、話していくうちにそれが職員も施設や利用する人々を広い目で事細かに見守っているのだとわかっていきます。ちょっと上司にいたら鋭すぎて怖いかな、という気持ちもしそうですが、あとで他のインタビュイーの方々が「お世話になった」「育ててもらった」「助けてもらった」と語っていた上司が、この西田さんであることが判明する仕立てがなんだか伏線回収みたいでグッときます。ちゃんと伝わってるんです。

安達さんの書いているZINE。ささやかな日々の心地よさが読めて、ほぅ、ってなる。

安達さんの書いているZINE。ささやかな日々の心地よさが読めて、ほぅ、ってなる。

ちょっと長くなっちゃったのでそろそろ締めたいと思います。

話が飛ぶように感じるかもしれませんが... 私、ここ最近、2014年頃に放送されていたバレーボール漫画「ハイキュー!」のアニメをずっと観ていました。(観始めたきっかけは、トレーニングでお世話になっているトレーナーさんから「観るときらきらした気持ちになる」と言われたので)

で、この「らせんの日々」のインタビューを読んでいて「なんかハイキュー!みたいだなあ」と思ったんです。どういうこと?って感じですが、「ハイキュー!」に限らず、「スラムダンク」でも「アオアシ」でも「メダリスト」でも、競技をテーマにした作品っていろんな人(競技相手)が出てくるじゃないですか。

そして、それぞれがちゃんと自分の競技に対して自分なりの哲学がある。はじめから素晴らしいそれがなくても、少しずつ試合や練習や人との出会いを重ねて出来上がっていく感じ。そういうのが、この『らせんの日々』のインタビューの中にもあったと思ったんです。だから、「ハイキュー!みたい」だなって。

登場人物の多い競技漫画は、どこか自分が思い入れを持つキャラが出てくると思うのだけど、同じように目の前の仕事に向かういろんなスタイルに「あ、この人いい...」ってなるのも読む楽しみの一つになるかもしれません。

試合結果やスーパープレーは物語の湧き立つ瞬間であり、それと同時に彼らがそのプレーに繋がるまでの行動原理が出来上がるまでのプロセスもまた読み応えがあると思うんですね。なんか、そんな読み応えに近いものが感じられて、そして、自分の「哲学」はなんだっけかなと考えさせてくれる一冊でした。


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***

ということで、今週はこんなところで。

GWも後半に突入です。最後まで楽しい時間となりますように🎏

それでは、また!

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