息が止まる読書。

職人が職人を描くとこうなる、『神田ごくら町職人ばなし』
息も止まるくらいの迫力を物語で、『ミカエルの鼓動』

今日はいろんな意味で「職人」がいっぱいです。一番下に読書会の案内もあります。
Akane 2025.05.18
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5月も後半になりました。私の住む東京では、この週末は雨が降ったと思えば30℃近くになったりと、なんだか身体がびっくりしてしまいそうですが、お変わりないですか?

全然関係ないんですが、最近密かに私の中で点心ブームが来ています🥟

全然関係ないんですが、最近密かに私の中で点心ブームが来ています🥟

先週末は日本三大祭りでもある「神田祭」という有名なお祭りがありました。お手伝いをさせてもらっている古書店もこの地域にあって、私にとって下町は結構馴染みのある場所です。

人混みやワイワイした場所があまり得意でないため、お祭りやパーティー的なものから遠ざかって生きてきましたが、友達が神輿を担ぐというので誘われて見に行くことに。縁遠い世界であまり興味がなかったけれど、見たら圧倒されてしまいました。神輿自体もすごかったけれど、なんだか久々に子どもも大人も日本の人も海外の人も「みんなが一緒くた」になって同じ方向を見ながらわいわいしている空気が印象的でした。

さて、そんな神田という町で思い出すのが、坂上暁仁さんの漫画『神田ごくら町職人ばなし』です。

タイトルの通り、神田の町職人たちの話です。一巻では桶職人、刀鍛冶(日本刀の刀身を作る職人)、紺屋(今でいう染物屋)、畳刺し(畳職人)、左官(大工さん)が出てきて、「仕事への向かい方」や「矜持」を軸に物語は進んでいきます。(それぞれの話は別になっている)

例えば、若い刀匠は、自分が削った日本刀が子どもに当てられたことを知り、紺屋は友禅染めが大流行の中、仕事に思い悩み、今、大河ドラマでも話題の吉原遊郭が仕事場の畳職人たちは遊女たちから冷やかされ...

その中で何を思い仕事をするか。というのがテーマです。

中でも個人的に熱かったのは左官たちのドラマ。左官の話だけは他と違って1話で完結せず、3話連作の中編となっています。あえてあらすじ書かないでおきますが、連作分の厚みがあって、登場人物の個性も強く、何より仕事へのこだわりもすごい。他の職種よりも建築は多くの人が関わるので、それによる難しさの描かれ方も秀逸です。

職人というと、なんとなく「経験を重ねた男性」という印象が強くなりやすいですし、実際史実では女性の職人はそこまで多くなかったみたいですが、漫画では女性の職人の登場シーンも多く、いろんな人が職人の気持ちを感じながら興味深く読めるんじゃないかなと思います。

そして、特筆してお伝えしたいのが、細部の絵の描き込みがすごいところ。普段文字で本を読んでいると、物語の先が気になってどんどん進んでいってしまうんですが、その癖を少しだけ引き留めて、絵を味わおうと思わせてくれるほどです。(セリフがない箇所ほどじっくり読みたい!)技術や職人をテーマとしているけれど、描いている坂上暁仁さんご自身が体現しています。

残念ながら2023年に<一>が発売してから2年近く経とうとしているけれど、今のところ<二>はどこにも予告されていません。でも、なんだか読む度に感じさせる「自分が納得できるまで仕上げる」という仕事に対する迫力みたいなものは、一冊だけでも十分にあるようにも思うのでした。おすすめ!

***

さて、神田祭の流れで軽くご紹介しようと見返したら、思いの外グッときて語ってしまいましたが、実はこの流れでもう一冊、仕事の矜持のようなものを見せつけられる緊迫感が魅力の作品があるので、その話もぜひさせてください。

息も止まるくらいの迫力を物語で。

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