#14 数時間後、その本は運命の一冊になる。

買った時は違ったのに、数時間後、運命と思わせてくれた本って、一体どんな本?リクエスト回 第1弾「運命の一冊」
Akane 2021.05.16
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つぼみの状態の花を買って、その花が開くのを追いかけるのが好きなんですが、いつも思い出すのが綿矢りささんの『ひらいて』というタイトル。(本の中身は、全然関係ないですが、なかなか登場人物の暴走で面白い小説です😛)

暖かい日も、雨の日も、いろんな空気が入り混じった1週間でしたが、いかがお過ごしですか?

立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花と、美しいものの形容にも使われる、芍薬🌸

立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花と、美しいものの形容にも使われる、芍薬🌸

さて、今回は以前頂いたリクエストのお返事をしたく、本を棚から選んでまいりました。

面白いリクエストばかりで1回で収まりきらず分割になりますが、今回は「運命の一冊」について。一冊といいながら一冊じゃないんですが、その辺は言葉の締まりの問題ということでご愛嬌😇

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数時間後に「ただの本」じゃなくなった

このお題をもらったときに、そういえば「運命」ってなんだろう、と思ったんです。意外と知っている言葉は口で説明できない。調べてみると、「自分たちの気持ちとか意志とかを超えた巡りあわせのこと」と言語化できそうです。(それは、必ずしも幸せな巡り合わせとも限らない)

私の意志とは別に、思ってもみなかったことが起きた本と言ったら、あれだ。

すぐに浮かんだのが、山本文緒さんのなぎさでした。

この本は2013年の秋に単行本が発売されました。私、誕生日が秋なんですが、ちょうどその時に見つけたのです。山本文緒さんは昔から好きな作家さんのひとりで、『なぎさ』は当時、なんと15年ぶりの長編小説。

物語は、静かに、でも確実に何かが狂いながら進んでいきます。主人公の冬乃は、今でいう毒親から逃げるため、夫とともに地元を飛び出し、久里浜で静かに暮らしていた。冬乃は、働かなくては、と思いながらも前に進めず、夫とその後輩にお弁当をもたせて暮らす日々。

そんな中、突然妹が転がり込み、ひょんなことから「なぎさカフェ」を開くことに。オープンに向けてわたわたと過ごす冬乃たち。でも、気づかないうちに、夫と後輩はそれぞれある出来事に追い詰められていって... 

あらすじだけ見ると、「おおー!めっちゃ面白そう!」とはなりにくいかもしれません、正直なところ。でも、読んだ後に確実に「うわぁ......読んだわ...ふぅ...」としばらくぼーっとしちゃうような、重みを感じる本。

もうね、筆力がすごい。感想として下手ですけれど、すごい。読まれされている。なんていうか、ゆっくり進んでいて溺れているのに気づかない、みたいな感じっていうんですかね。読み進めるうちに爽やかな装幀とは逆の印象を受けるかもしれませんが、私たちの日々にも潜む感情の揺れに目が離せなくなる...


それから7年後の昨年、山本文緒さんは2021年本屋大賞にもノミネートされた『自転しながら公転する』を発表するのですが、なんだかその伏線のような空気を感じます。(これも、とってもおすすめ)


で、この『なぎさ』、なんで運命の一冊なの?というと、実は話の中身ではないんです。

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  • 行かない理由は逆に何?

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