#178 天才だと知られなかった天才の物語。

登場作品数:7冊
Akane 2024.09.08
誰でも

日中はまだまだ夏の気配が残っていますが、朝晩には薄手の長袖を出してもいいような頃になってきました。今週はいかがお過ごしでしたか?

私は今週やることがたくさんあって慌ただしく過ごしていたのですが、金曜日には無事に終え、泥のように眠り、土曜日の朝からいつものペースに戻ってきました。

週末お友達とご飯に。発酵ホイップ入りレモンサワーを飲みました🍋 とても美味しい...!

週末お友達とご飯に。発酵ホイップ入りレモンサワーを飲みました🍋 とても美味しい...!

さて、しばらく私は日本から出ていないのですが、地元も自宅も観光地に近いため普段からよく街中で海外の方をお見かけします。たまに「日本人の方が少ないのでは...」ということもなきにしもあらず。

週末、友達とご飯を食べていた時に、「卒論のテーマ、何にした?」という話になったんですが、一人の友達のテーマが「世界のお弁当」だと聞いて、興味津々。気候や文化で暮らしと共にお弁当も変わるのです🥢

世の中には自分が知らない国がたくさんあるよなぁ...と思うので、今日はある国に翻弄された人生を送った(送っている)、才能ある人たちの物語を2冊。

***

何者にもなれなかった天才(エストニア)

先週ちょこっと「今、読んでいます」と紹介したのですが、『ラウリ・クースクを探して』が良かったので改めて書いていきたいと思います。

私は結構「天才もの」の小説が好きです。その中でもあんまり派手じゃないものが好み。明らかな天才は誰が見ても天才なんですが、例えば「見る人が見て、それを見つけてちゃんと世の中に引っ張っていった」ことによって天才として認知された人もいて、そんな偶然の産物のような危うさを持つ天才の物語に惹かれます。

『ラウリ・クースクを探して』は、そのタイトル通りラウリという人物の現在を、とあるライターが探す中で彼の人生を描いていく取材形式の物語です。作者の宮内悠介さんは、SFを中心とした作品に定評がありますが、こちらはSFではありません。

私はフリーランスでITの仕事をしていて、バルト三国の一つであるエストニアという国は「世界最先端のIT国家」とも呼ばれており職業的に気になる国の一つでした。なので、「エストニアがIT先進国になる前にプログラミングの天才少年が国家の歴史に翻弄されながら生きた話」というあらすじだけで十分にそそるものがあり読み始めました🤤

8年前にKindleでエストニアの本を買っていた📚

8年前にKindleでエストニアの本を買っていた📚

ちなみに、「ITもエストニアも別に興味ないなぁ、この本は自分とはちょっと違うかもな」と思ったらちょっと待って、とも言いたい感じです...!

あくまでエストニアという舞台は外側を固める一要素であって、メインは「小さな国が大きな国の影響を受ける時代で人生が翻弄される天才の行く末」、そしてそれが語られる「物語の構成」。ここが楽しみどころです。


前置きが長くなったけれど、物語はざっくりこんな感じ。

ラウリはしゃべるのが苦手で、クラスの中心人物や先生からも嫌われて、劣等生かつ友達もいない状態で子供時代を過ごしていたが、機械技師であった父親が持ち帰ったコンピュータを触り始めてからラウリの世界は変わっていく...

コンピュータの授業で見せたラウリの技術でひっくり返るクラス内の序列や、もう一人の天才少年との出会い、国家の激動の変化が普通の日常を壊していく様や大人たちがつかなければならなかった嘘、あとで出会い直すことになる子供時代のいじめっ子や行ってはいけないと言われる教会の不良神父との交流...などなど、いい場面が随所にあります。

個人的には、孤独だったラウリがもう一人の天才と出会った時の場面やプログラミングという「彼らだからこそ通じ合える言語」を見つけて心を開いていく様子はグッと来ました...

ラストには「取材形式の小説」という構成の意味がちゃんと繋がってくるので、最後の最後までぜひ読んでほしい作品です!

***

制限付きで世界を渡る方法(ルーマニア)

もう一冊はちょっと変わったエッセイです。広義に言えば、個人的には冒険エッセイと言っても差し支えないような気もします。

その本を仕事の休憩中に読んでいると、たまたま通りかかった取引先の人から「何の本を読んでいるんですか?」と聞かれました。タイトルを伝えて「ああ!あれね!」とは多分ならないだろうと思い、というか、タイトルが長すぎて覚えられないので、さて、どう説明したら簡潔に言えるだろうか、と悩みつつ、

「ルーマニアに行ったことがないけれど、ルーマニア語で小説を書いている日本人の話です」

と伝えると、「えーと、なかなか入り組んだ本を読んでいますね」と言われました。話が繋げられなくてごめんなさい...

ということで、この本は、作家であり映画ライターの済東鉄腸さんの『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』という、noteのタイトルに出てきそうなラフな語り口が特徴の一冊です。

この本は本屋さんの友人が選んで貸してくれて、その際に「ちょっと書き方に好みは分かれそうだけれど」と一言もらっていたのですが、確かにそれはその通りで、もしかしたら苦手と思う方もいるかもしれません。

が、そこが乗り越えられるとしたら、これはいろいろな意味で収穫のありそうな本だと思いました。

主な収穫は「引きこもりながら世界とつながり、日本人初のルーマニア語で小説を刊行するという夢を現実にさせた方法」と「好きって熱意ってすごい」です。

前者の「夢実現」のところが個人的には見所で、かなり具体的に書いてあります。タイトル通り、この方は難病で遠出ができず引きこもりなんですが、それ以外の行動力がすごかった...いや、本当に。

パーソナリティなのか「好き」が凄すぎてなのかは判断しかねるのですが、千葉の部屋からルーマニア人とネットで繋がり、そこからどんどん世界を広げていく様はまるで小説のよう。全く同じことはなかなか難しいかもしれないけれど、一つ一つやっていることを分解してくと、「どうしても難しいこと」という訳ではなくて、ということは「無理だと思っていたことも、一歩一歩進んでいけばできるかも...?」と思わせてくれます。

「ここまで夢中になれるものがあったら羨ましいな」と思うくらいの熱意は、先に紹介した『ラウリ・クースクを探して』のラウリのプログラミングと似ているけれど、「見出されて世界に出たラウリ」と「自力で世界を突破した済東さん」のその先は時代や出会いもあって全く異なる形になっていくんですよね。この2冊を続けて読んだのは、偶然ながら意味がありそうな気がしました。

ちなみに、済東さんとは逆に「日本語でエッセイを書くルーマニア人」の本が『優しい地獄』。こちらはまだ未読なのですが、『千葉からほとんど〜』と一緒に本屋さんの友人が貸してくれた本。世界には面白い人たちがたくさんいるんだな...

その他にも、複雑な歴史を持ち、現在は消滅した国家・ユーゴスラビアから来た少女の行方を追う『さよなら妖精』や、東アフリカにあるブルンジが舞台の『ちいさな国で』などもおすすめです。天才繋がりでいくと、類稀なる才能を持つ人だけが持つ苦悩を見事に描き切った『永遠についての証明』も私が衝撃を受けた作品。

***

ということで、今週はこんなところで。

最近なんだか体調が芳しくない日もあって季節の変わり目だからかなと思っているのですが、お互い気をつけて過ごしましょう...!

▼ 感想などお送りいただけると喜びます。紹介した本を読んだよ報告もとても嬉しいです。 (匿名なのでお気軽に。お返事は仕組み上できないのですが、全部ありがたく読ませて頂いています。質問は「裏レター(note)」に掲載させてもらうこともあるので、NGの方はその旨教えてくださいね)

無料で「拝啓、読書家様」をメールでお届けします。コンテンツを見逃さず、読者限定記事も受け取れます。

すでに登録済みの方は こちら

読者限定
#184 話題の『地面師たち』読んでみた。(面白かった...!)
読者限定
#183 新しい文学と新しい散歩。
読者限定
#182 落ち込みを引きずりながら社会の本を読んだらスッキリした話。
読者限定
#181 本とパンが好きです。
読者限定
#180 したたかに、心やさしく生き抜く方法 🐈
読者限定
#179 本に書く勇気、書かれる勇気。
読者限定
#177 届きすぎてしまった本。
読者限定
#176 その手紙は開かないで ✉️ (でもこのレターは開いて欲しい)...