#11 聴こえない大声、目があると見えなくなる世界

大声なのに聴こえない声、目で見えない世界。そんなことある?なお話とともに、ちょっとだけ知っている世界を広げていく回です。
Akane 2021.04.25
誰でも

4月だというのに上着がいらないような日が続いていますが、お元気ですか?

花瓶のなかに点字のシートが入っているんです。今日はこの点字もひとつのキーワード。

花瓶のなかに点字のシートが入っているんです。今日はこの点字もひとつのキーワード。


わたしは、先週末にかねてより勉強していた資格試験を終えたんですが、試験会場が東京・神保町という本とカレーの街だったんですよ。好きなものがぐっとつまった街で試験を受けられたのは、ちょっと縁起がいい気がします😏

試験後、この本とカレーの街をうろうろしようと思っていたのですが、終わってみるとそんな余裕もなく、早く無印良品の「ひとをダメにするソファ」に転がって本を読みたい、と颯爽と帰宅。

家につくと、部活の休憩中にスポーツドリンクをごくごく飲むが如く、文字を飲むように読んだのでした。(謎な表現だけど、本当にそういう感じ)

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誰にも気づかれない叫び声

町田そのこさんの『52ヘルツのクジラたち』は、先日決まった今年の本屋大賞作品。

本屋大賞というのは、いわゆる文学賞のような作家さんが選考委員というのではなくて、書店員さんが選ぶ賞です。 

本屋さんでくじらのしおりをつけてくれました。カワイイ。

本屋さんでくじらのしおりをつけてくれました。カワイイ。

『52ヘルツのクジラたち』は、過去に複雑なものを背負い誰も知らぬ町にやってきて”第3”の人生をはじめた20代のキナコ、その町で出会った喋れなくなった少年、そしてキナコの第1の人生を終わらせ、第2の人生を始めさせてくれたアンさんの「救済」の物語。

電車の中で、涙を耐えなくては、と思うくらいには苦しくなります。でも、その苦しさの先にきちんと光を感じられるので、本を閉じたときは晴れやかな気持ちにしてくれるはず。脇役に何人もいいキャラクターがいるので、それも注目してほしいです👀✨

「52ヘルツのクジラ」、という聞きなれない単語ですが、このクジラは実在しているのです。でも、その正体は不明。

クジラは広大な海の中で、その鳴き声でコミュニケーションをとりますが、52ヘルツのクジラは通常のクジラたちより遥かに高い周波数なのだそう。なので、52ヘルツのクジラの声は、他のどのクジラも聴くことができません。

海の中で検出された、その52ヘルツの鳴き声の主はひとつと言われています。どれだけ声を出しても、その声が聴こえる仲間はおらず、「世界でもっとも孤独なクジラ」と言われ、誰からも見つけられず、名前は、まだついていません。(でも、声は何度か検出されていて、少しずつ健やかに成長していることも分かっているのだそう)

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「そっちの世界って、そうなんだ」

絵本って、大人になってから読みましたか?

大人になってわたしは、絵本がただ易しい言葉で書かれている物語というわけではない、ということを知り、衝撃を受けたんですよね。

ヨシタケシンスケさんという作家さんの本は、これは大人向けに描いたでしょ。ほんとは、子どもに読み聞かせながら声を出す大人に向けて描いたでしょ。と、思うほどに考えさせられるし、発見があります。

この発見というのが不思議なもので、発見したもの自体は、"もともと知っているもの"なんですよね。知っているのに、なんでか日々の暮らしの中で置いてきぼりにしてまったり、都合のいいように変えてしまったりした、過去に知っていたものなんです。だから、ぐっと引き戻されて、そうだそうだ、今、これを考えるべく私はこの本を開いたのだ。と思って読むんです。

みえるとかみえないとか』は、宇宙飛行士の「ぼく」が、調査のために降り立った星でいろいろな人に会って「違いってなんだろう」と考えるお話。

うしろにも目があるひとたちが、「え!きみ、うしろがみえないの?」といって、目がふたつしかない「ぼく」に気を使って道を開けてくれたり、「すごい!ちゃんと歩いてる!」と褒めてくれたり。「ぼく」は、なんだかヘンな気持ちになる。

短いおはなしなので、なんだか全部紹介できちゃいそうだし、紹介しちゃいたいくらいなのですが、もったいないので冒頭部分だけで止めておきますね😏

『みえるとかみえないとか』で、見えない世界は「そっちの世界」と呼ばれていました。「同じ世界の"見える人"と"見えない人"」、ではなくて、そもそも違う、「こっちの世界」と「そっちの世界」です。

わたしは、そっちの世界はどうなっているんだろうと思いました。まさに、「ぼく」が宇宙にでかけたみたいに、わたしも行こうじゃないかと。

そして、『みえるとかみえないとか』の著者欄にヨシタケさんと名前を連ねていた「そうだん・伊藤亜紗」を見つけ、伊藤さんの著書、『目の見えない人は世界をどう見ているのか』を手に取ったのでした。

こういう風に、何かしら繋ながりながら本を読んでいくことを「連鎖的読書」というんですが、知識も深まるし、いろんな断面が見えて面白いんでオススメです。ちなみに、ヨシタケさんの本を知ったのは、3月に訪れた食堂に置かれていたという偶然から。

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視覚があると見えない世界

『目の見えない人は世界をどう見ているのか』の著者・伊藤亜紗さんはアートや美学という学問を専門とする、大学の先生です。

『みえるとかみえないとか』を読んでからこの本に入ると、一見小難しく思えることすらも「そっちの世界」を覗き見しているような感じで、パッと絵が浮かびます。

目で見えない方のテッパンアイテムのひとつに「点字」を思い浮かべる方も多いと思うのですが、点字の識字率は、見えない方の中で約1割なんだそう。(ちょっと古いデータだそうですが)

左のしおりは点字しおり。紐は植物から色を抽出したもの。『獣の奏者』は今読んでいるのだけど、面白くて毎日夜更かし...

左のしおりは点字しおり。紐は植物から色を抽出したもの。『獣の奏者』は今読んでいるのだけど、面白くて毎日夜更かし...


え、って思いました。勝手に、点字は見えない方の共通の言葉だと思っていたので。思いこみ、ダメ、ゼッタイ。だな。

見えない方が「視覚とともに、友達とふざけあうことを失った」という話。「見えなくなってからの方が転ばない」という話。見える人のほうが強いところ、見えない人のほうが強いところ。見えない人の体や感覚の使い方。わたしの知らなかった世界がギュッと詰まった一冊で、「へぇー」「はあ〜」って言いながら読みました。

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東京・青山に「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」という施設があります。ここでは、完全に光を閉ざした“純度100%の暗闇”の中を、普段から目を使わない方たちがナビゲーターとなって案内しくれます。

ずいぶん昔ですが、私はこの場所に行って、まさに純度100%暗闇で過ごしたことがあります。(今は、多分一般開放はしていないよう)

とにかく覚えているのが、視覚以外の感覚がグァァッと敏感になったことです。真っ暗闇の中、畳の部屋でちゃぶ台を囲んだり、カフェでお茶を飲むんですよ。そうすると足の裏の畳の目地の感覚、飲むものへの謎の恐怖感をがっつり感じます。

チームになって見知らぬ方々と進むのですが、チームのみんなの声や、喋り方や、暗闇の中での動きなど「見た目」からの情報なしで人を見るんです。そこでは、視覚があったら見えなかったものが見えた気がします。真っ暗なのに。いや、真っ暗だからか。

この暗闇の世界での、「こっちの世界」の人たちのぎこちない動き。「そっちの世界」の人のサクサクとした動き。不思議な異空間で、『みえるとかみえないとか』の「ぼく」のように、なんだかヘンな気分。本当に、世界は「こっち」も「そっち」もあって、それぞれの星に住む人には同じところ、違うところがあるだけなのかも、と思われせてくれます。

と、色々書いたんですが、生きる上で個人的に気をつけて意識しているのは、「本当のところは当の本人にしかわからない(本人すらもわからないこともある)ということです。「そっちの世界」のことは、やっぱり「そっちの世界」でしか見えないことも知り得ないこともある、と。

本を読んでいて知識を積むと、たまに知った気になってしまう。だから、なるべく意識的に分かったフリはしないようにしようって気をつけています。結構しっかり意識しないと、本当に忘れてしまうから。人間て。

余談ですが、先日、福祉支援施設で働く方にお会いしたんですよ。(インスタで知り合い、お声がけして会いに行かせてもらいました)偶然にも、彼女がわたしに勧めてくれようとした本が、この伊藤亜紗さんの本だったというのだから、ちょっと驚きでした😮

※もし表現などで配慮が足りないと感じる部分や気づいた点などがあったら是非、下部の匿名メッセージから教えてください🙇‍♀️

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レター運営アンケートの結果

このレターを、もっと楽しんでもらえるようにと前回アンケートをつけたところ、たくさんの回答を頂けました。お忙しい中と思うのに、自由記述欄までたくさん書いてくださる方が多く本当に嬉しかったです。ありがとうございました!

結論でいうと、今の状態維持(週1回、日曜21時配信、このくらいの文量)で引き続きお届けします! 読んでくださっている時間は夜の方が多いけれど、翌日の方も結構いました。(ので、前回からはじまりは「こんばんは」ではなくしました)

「知らない本が知れて楽しい」という方がとても多く、知的好奇心が高い方が多そうです💡今は小説が多めですが、実用書や漫画も増やしていきます。

時間や余裕がなくて「本を読みたいけれど読めない」というコメントをたくさん頂きました。その中に、このレターを「読書が苦手な私の唯一の読書の時間な感じです」や「本を読めない時でもその世界観に少し入ることが出来て嬉しいです」と書いてくださった方々がいました。このレターを本に見立てて楽しんでくださっているのならば、毎週書いていて、これ以上嬉しいことありません🙏

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私が住む東京では、今日から緊急事態宣言が発令されました。書店もその対象とのこと。色々と気をつけることが多い日常ですが、引き続きご自愛くださいね。

それでは今回はこんなところで👋

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