#159 生き抜くコツは小説の「悪いひと」が教えてくれた。
4月もあっという間に終わりに近づいてきました。世の中でいうGWに突入して、長い人だと10連休とのこと。私は4/30、5/1,2は仕事なので長い連休ではないですが、特にこれといって遠出の予定もなく、日常に輪を掛けて家に引き篭もろうと思っています。
GW初日の昨日は織守きょうやさんの『キスに煙』を1日で読み切り、2日目の今日は原田ひ香さんの『図書館のお夜食』へ突入です。
『キスに煙』は小説では珍しい、フィギアスケーターを題材にしたサスペンスの要素も入った物語。同世代スタースケーターだった塩澤と志藤。ライバルでありながら親友でもあったふたりだが、塩澤は先に引退し、デザイナーの道へ。適度に志藤と距離をとりながら「一生言わない」と決めていた秘密を抱えていた。
物語の冒頭は誰かが焦りながら「警察に見つからないように」と風呂場で身体を丁寧に洗っているところから始まるところがなんだか意味深。この落とし所と秘密を追いたくて、ついついページが進みあっという間に読了でした。
一方で1週間ほど掛けてじわじわと読んでいたのが、川上未映子さんの『黄色い家』。本屋大賞にもノミネートされていましたね。
なかなかの分厚さに、明らかに不穏さが滲み出ていて、正直読むまでに「読みたいけれど、読みたくない」という矛盾した感情があって長らく積読にいたのですが、手を出したら夢中で、読める時間を捻出したくなる一冊でした。
でも、予想通り、別に楽しい気持ちには全くなれるものではなくて、ほぼ不穏。そわそわ。心配。読んでいて分かる、これから「きっと嫌なことしか彼女たちには起きない」予感。
もちろん楽しいシーンがないわけじゃないです。でも、それすらもこれから落ちる準備に見えてしまう。それがもう全体から浮き上がっていて。どんどん細くなっていく道を、だんだんつま先歩きで「落ちないように、落ちないように」と慎重に進んでいく様子は目が離せなくてなんだか息が止まりそう。そうさせるほどの物語の引力がすごいんです。
物語の中心の時代は1990年代後半。17歳の花は、父親が不在がち、母親もネグレクトに近い家を出て、一時期母親が家を出ていた時期になぜか家にいて世話をしてくれた黄美子さんと、同じく家出同然の少女たちと一緒に暮らしていた。
年を誤魔化して黄美子さんたちとスナック「れもん」を営み、口座や身分証明書は持たないまま、とにかく生きるために必死にお金を貯めていた。それは、慎ましやかだけれど、どうにか彼女たちが暮らしていくことができていた。
しかし、とある事故で「れもん」を失い、黄美子さんも少女たちも何もできずにいる中、花はもう一度「れもん」を始めるために、そしてジリジリと減っていくお金を見ながらこれからを生きるのために働きたいと思うが、家出中、身分証明もできない花たちに仕事などない。
そんな中、「自分が家を守らねば」と思った花はみんなに内緒で「シノギ(主に暴力団が収入を得るために使う経済活動の呼び名)」の仕事であるカード犯罪の出し子をやることを決め....
Photo by Giovanni Gagliardi on Unsplash
というなかなかのヘビィ級の話ではありますが、この闇深さ、種類で言うと「ありそうで、ある」。現に参考文献は現実にあることだと言っているのです。
闇の場所でどうにか生きている登場人物の言葉は、時に驚くほどハッとさせられます。その時だけ、一瞬物語の外に出されて「これは気をつけなくては」と、その言葉を現実の自分の引き出しに入れました。
そういう意味で『黄色い家』で一番印象に残ったのは、この場面でした。