#155 心と毒を込めて、花の本束を。

同じ花でも、両極端な2冊。
Akane 2024.03.31
読者限定

暖かい週末となりましたが、いかがお過ごしですか?

今日2024/3/31は年度も月も週も最後の日という、区切り感満載の日ですね。私も3月で色々なことが区切りとなり、4月は仕事をセーブしたので落ち着いて読む時間も取れそうです。だいぶ我慢していたおでかけも花粉に負けずに繰り出そうと思います!

さて、3月といえば、卒業式や送別会などの催し。お花屋さんは母の日のある5月と並んで最も忙しい季節なんだそう。

今日はそんな、花にまつわる「正反対」な2冊を...💐

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ありそうで実際あるんだけど面白い

花はどこか物語めいている、と感じるのは、花言葉が関係しているような気がします。

本を読むときに「あらすじ」を読んで選ぶ時があるように、私は花を選ぶときも「花言葉」で選ぶときがあります。先月は誕生日の友達にはミモザ入りの花束を贈ったんですが、花言葉が「友情」だったのも決め手の1つでした。

私はお花は好きなんだけど詳しいわけではないので、花屋さんに行ったときにオーダーに困ってしまうこともあります。

だから、最近読んだ山本幸久さんの書く『花屋さんが言うことには』に出てくる元国語教師の光代さんみたいな店員さんがいたらいいな...と思いました。(ちなみに光代さんは主人公ではありませぬ)

『花屋さんが言うことには』は、東京の端っこの方の街にある、パチンコ屋とスーパーに挟まれたこぢんまりとした川原崎花店を舞台に、ブラック企業から抜け出した紀久子がアルバイトとして個性豊かなスタッフたちと働きながら「やりたいこと」に向けて自分を取り戻していく連作短編形式の物語。

川原崎花店では、小さいながらにお客さんの心を掴むための工夫を絶やさない。そのひとつが表の看板に書いている花にまつわる短歌や俳句、詩や小説の一文などの引用。これの役目を担っているのが先に書いた元国語教師でスタッフで1番の古株の光代さんです。こんなふうに説明されたら読書好きは買っちゃうよ〜と思います。笑。

光代さんの他には、やたらカレーが上手な花の研究者の芳賀くん(ただししょっちゅう調査で数ヶ月いなくなる)と酔っ払いながらブラック企業から紀久子を助けてくれた、いい感じに適当な店主の李多さんがいます。

芳賀くんが得意なカレーはスパイスカレーですが、東京・谷中にある喫茶ニカイのバターチキンカレーです

芳賀くんが得意なカレーはスパイスカレーですが、東京・谷中にある喫茶ニカイのバターチキンカレーです

それぞれの連作短編では様々なお客さまが特別な思いを持って花を求めてやってきます。それは、花は欲しいのだけれど欲しい花がわからない人だったり、本当は「いないはずの人」だったり...

さらに物語が進んでいくと働いているスタッフのみんなにも色々な事情が見えてきて、全体的に朗らかな温度で進む中にもちょっぴりスパイスがある一冊です。


系統でいくと、食べることが好きだからとなんとなく選んだデパートの和菓子屋さんで、いつの間にか和菓子にのめり込んでいくアンちゃんが主人公の人気小説『和菓子のアン』が近いかなと思うのですが、またアンちゃんとは紀久子は違うタイプの主人公で面白いですよ!

....ということで、楽しい花はここまで。

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「美しい花には棘がある」を地で行く小説。

お次は打って変わって様相が急にダークですが、「罠、また罠。」と言われる探偵ものミステリー。

私個人は「気持ちよく騙されたい系」の読者なのでミステリーや推理ものもあんまり考えずに読み進めるのですが(推理しながら読むのももちろんいいと思う!)、なるほど構造が秀逸でこれは全部見抜くのはかなり難易度高めかも...?

それから、終わり方も宮部みゆきさんの『火車』の空気を感じるこのなんとも言えない読後感。(実際はちょっと違ってあくまで空気)

驚きからの結末後の気持ちのやり場に迷子、という兎にも角にもなかなかな作品がこちら。

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