#193 大人になっても「生きる練習」の本 3選。

今週のレターは今年最後なのでちょっと長いのですが、全部すごくいい本で、なるべく画像多くしたり文章を余白作ったり、読みやすいようにしているので最後までよろしくお願いします!🙏
Akane 2024.12.22
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さて、ついに今年も残すところあとわずかとなりました。

これを書いているのは金曜の夜で、六本木にいます。六本木の街は、人も街もなんだかちょっとウキウキしていて、それを見ながら私は「本と出会うための本屋」というコンセプトの有料本屋・文喫 六本木さんにおります。

いつも多くの人が(静かに)集まる文喫さんだけれど、この夜は珍しく静か...

いつも多くの人が(静かに)集まる文喫さんだけれど、この夜は珍しく静か...

忘年会シーズンで外のワイワイとした空気と対照的に、穏やかで静寂なこの空間をほぼ独り占めというラッキーな夜です。

12/21は冬至で、1年で最も昼が短く、夜が長い日です。

余談ですけども冬至といえば「柚子湯」や「カボチャを食べる」というのが知られていますが、なぜカボチャを食べるかというと、「運がよくなるように」らしいです。名前に「ん」が重なる食べ物は縁起物で、カボチャは「南京(なんきん)」とも呼ばれることからそうなってみたいですよ。(にんじん、れんこん、とかも同様)

冬至の画像を探したら出てきました。その他に、ぎんなん、きんかん、かんてん、うどん(饂飩 = うんどん)もそうなんだそう。

冬至の画像を探したら出てきました。その他に、ぎんなん、きんかん、かんてん、うどん(饂飩 = うんどん)もそうなんだそう。

さて、(ようやく)本の話なんですが、今週は「生きる練習の本 3選」というテーマでお送りします。

「冬に読みたい本 3選」とか「年末年始にゆっくり読みたい小説 3選」とかじゃないあたりが、私のレターならではということで(?)、今日はちょっと長いですが3冊分、お付き合いくださいませ...!

***

① 医療記者のレストランでのアルバイトから知る「生きる練習」

新卒の会社の同僚で私と同じようにフリーランスでITの仕事をしている友人が、この前会った時に「いま焼き鳥屋でバイトしてるんよ」と言ったので、どういうことかと聞いてみると、次に入る仕事の開始時期の都合で12月は1ヶ月空いたから、一緒に飲むくらい仲の良い近所の焼き鳥屋に誘われて繁忙シーズンの今だけ手伝うことになったそうです。

「いい店だから!美味しいんだよ」と晴れやかな顔で彼女に言われて、GoogleMapにピンを立て、近いうち食べに行こうと決めました。

そしてもう一つ、最近、一冊の本がきっかけでピンを立てたレストランがありました。

『今日もレストランの灯りに』は、医療記者である岩永直子さんのレストランでのアルバイトの記録で、そこにはシェフ、一緒に働く仲間、常連さん、印象的なお客さんといった登場人物と、心躍るいい日やちょっぴり傷を負う日など様々な日々が描かれています。

岩永さんの趣味は飲み歩き。コロナ禍がまだ少し落ち着かない時期のある日、偶然立ち止まったイタリアンレストランでシェフや常連さんに「一緒に飲もう」と誘われたことをきっかけに、フルタイムの医療記者と並行して週末ディナーのホール担当としてお店でアルバイトを始めることになります。

しばらくして会社の異動で医療記事が書けなくなったことを機にフリーの記者になった岩永さんは、そのことをnoteに書くのですが、思わぬことに、たまたま少し触れたアルバイトの部分に注目が集まり書籍化されたのがこの本なのです。

今日は「生きる練習」というテーマなのでそこに絡めて印象的な場面をご紹介すると、例えば、岩永さんは読売新聞やBuzzFeed Japanといったマスメディアで長くキャリアを重ねたベテラン記者ですが、レストランに入ったばかりの頃はもちろん新人からスタート。

シェフはこだわりを持った職人なので言葉での説明が得意ではないこともあって「なんでできないんだ」的なことを言われてしまい、一方の岩永さんも「なんでそんな言い方を」と言い返し微妙な空気になる場面があります。

でも、この状況を解決すべく、岩永さんはシェフの気持ちを理解するために数々の一流シェフの修行本(『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか?』村山太一 著など)を読み、アルバイト仲間の大学生のコイズミくんの姿勢に倣い「自分は記者としてベテランになったきていたから、どこか謙虚さ・素直さを忘れていたのではないか...?」と内省します。

また、ある日、数日連続で一人で食べに来てくれる海外の男性のお客さんがいたのですが、英語に自信のない岩永さんは以前の失敗から少し躊躇し声をかけられずにいました。しかし、そのお客さんがスマホアプリで日本語翻訳した文字を見せてくれ、そこには、「自分はテキサスから来ていること」、「ここに来るのは今日で最後なこと」、「今まで食べたイタリアンの中で一番美味しかったこと」が書かれていました。そこで、岩永さんもお礼と質問を返すと、なんと同業の記者であることが判明!「Oh! so cool!」と言われ、二人が職業人として通じ合ったその瞬間は、なんだか目に浮かぶようでした。

岩永さんのレストランアルバイトの日々を見ていると、記者生活では得られなかったものが本当に多くあるように感じられました。岩永さんにとって、レストランは人生のサードプレイスになっていき、本の中で途中からレストランの呼び名が「うちの店」という言葉に変わっていくことに気がついて、勝手に嬉しくなっていたのでした。

きっかけは偶然だったかもしれないけれど、積み重ねてきた場所とは違う場所に身を置いてみることで「通るはずじゃなかった人生」に出会った岩永さんのアルバイトの日々は、いい時も苦しい時も含めて岩永さんを変えていく「生きる練習」のように私には映りました。そしてその姿は、ぐんぐんと吸収してパワーアップしているところはもちろん、もがいている部分も含めてとてもかっこいい。

時折グッと涙が浮かびそうになる場面もあるし、岩永さんの真摯な仕事や人への向かい方に学ぶところも多くて、今年最後にいい本に出会ったなぁという感じで、色々な人におすすめはじめているところです。もしよければ、読んでみてください!

ところで、中身とは直接関係ないんですが、タイトルの『今日もレストランの灯りに』の後に続く言葉ってなんだったんだろうなぁ、というのが私の残った素敵な謎なのでした。

↓岩永さんも医療記事のレターやっています。

***

すでに2500字ということで、あまりに長いと読むのも大変だと思うので、あと2冊はちょっと駆け足でまいりますね。

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続きは、3387文字あります。
  • ② 在日韓国人社会学者の子連れフィンランド移住から知る「生きる練習」
  • ③ トラウマ研究の第一人者が教えてくれる「傷つく」を通した「生きる練習」

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