#60 もしも海外文学挫折組が本屋さんに相談してみたら。

選ぶポイントを知って、読みたくなって、人にも伝えたくなった。

【目次】
1. 自分に合った海外文学を選ぶ6つのポイント
2. 本屋さんのオススメ海外文学
Akane 2022.05.01
誰でも

GWが始まりました🎏!

私は人が多いところが苦手な引きこもり気質なので、家で読書と近所の散歩が最強の休暇と思っているのですが、みなさんはどんな休暇がお好きでしょうか?😌

先日伺った、都会に突然ノスタルジックなカフェ/東京・日本橋「黒澤文庫」

先日伺った、都会に突然ノスタルジックなカフェ/東京・日本橋「黒澤文庫」

さて、今週は「海外文学挫折組が本屋さんに相談してみた話」をお届けします。


少し前になりますが、「#52 掘り出し本、彗星の如し」の回でアンケートをとったところ、海外文学に興味をお持ちの方が多めだったということで、素敵な一箱本屋さん・フォンオルファース 商會の店主・Northさんにお話を伺ってきました!

ということで、時は2022年3月下旬。場所は、"渋谷からすぐ、本の森"のキャッチフレーズを持った「森の図書室」。

おすすめの海外文学の話や選び方を訊きたいと思ってアポを取らせていただいたのですが、「これはレターを購読してくださっている皆さんに伝えねば...!」という謎の使命感にかられるくらい熱い時間でした🔥

早速はじめていきたいと思いますが、今回は会話形式でお届けするので、ぜひ一緒に話をしているつもりで読み進めてください!

***

自分に合った海外文学を選ぶ6つのポイント

Akane:"読むしかできないイベント"(※ 私が主催している読書イベント)の選書で持ってきてくださった本がすごく興味深くて、海外文学を読みたいなと思った時に、すぐにNorthさんが浮かびました。今日はよろしくお願いします!

North:ありがとうございます。よろしくお願いします!ところで、Akaneさんは、どうして海外文学を読もうと思ったのでしょうか?

Akane:はじめは、「古典」と呼ばれる本を読んでみたいなと思ったからですね。でも、大学生の時にサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』読んだのですが、途中で挫折してしまって...

North:そうだったのですね。

Akane:社会人になってから村上春樹さん訳の『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を買って再チャレンジしたのですが、これもまた途中で読めなくなってしまって「海外文学あんまり得意じゃないのかな?」って思っていました。でも、去年の夏に『兄の名は、ジェシカ』#24 もしも大人が青少年読書感想文全国コンクールの本を読んだら。)を読んだら、何も引っかかることなくするする読めて。何が違うのだろうと思ったんですよね🤔

North:いろいろな要素があると思うので、一概に「これ」ということはないと思うんですが、

  • 「作家・翻訳者」

  • 「言語」

  • 「舞台設定」

  • 「読む目的・テーマ」

  • 「対象年齢」

  • 「受賞歴」

あたりが選ぶポイントになりそうですね。でも、よくよく考えると、これって「翻訳者」、「言語」を除くと日本の小説を読むことと同じじゃないですか?

Akane:ほんとですね...!「海外文学」ってなんだか別のものとして自分の中で区切ってしまっていたのかも...

North:海外文学を読んでみたけれど、挫折してしまったり楽しみきれなかったことがある方には、海外YA(ヤングアダルト)をオススメしたいなと思います。

Akane:ヤングアダルト(以下YA)…あまり意識したことなかったです。

North:YAは英語圏で児童文学と文学一般の間に位置するカテゴリーです。Akaneさんは『ハリーポッター』は読みましたか?

Akane:子供の頃、めちゃくちゃハマりました!今思うと、あんなに厚いし、何冊も出ているのに、みんな貪る様に読んでいたのが不思議です。本が好きって訳じゃない友達とかも読んでいた気がします。

North:『ハリーポッター』は読んだけれど、その後が続かなかったという人は少なくないと思います。そこから突然大人向けの海外文学に入ると、もしかしたら読みにくいと感じる方もいるかも。そういう方にYAはオススメです。

Akane:要素でいう、「対象年齢」の話ですね。対象年齢って、あくまでも目安で、実は楽しめる年代は広かったりしますよね。日本でも、上橋菜穂子さんの『獣の奏者』や『守り人』シリーズは児童文学に入っていますが、大人も楽しめますもんね!

North:年齢の話でいくと、「作家・翻訳者」の年齢(書かれた・訳された年代)も読みやすさに関わると思うんです。あとは、翻訳者が「プロの翻訳者」の方なのか「学者」の方なのかも違いがでそうです。

Akane:なるほど、古典が読みにくいと思うのは、使う言葉が今と少し違うからかもしれません。そうすると、現代に近い方を選ぶと読みやすそうですね。あ、これも海外文学特有の話というよりは日本の本でもいえることでした。

North:「使う言葉が違う」という話でいくと「言語」もありますが、個人的にはまずは馴染みのある言語である英語を翻訳した海外文学が読みやすいのではないかなと思います。

Akane:昔苦戦した『ライ麦畑でつかまえて』も、最近するする読めた『兄の名は、ジェシカ』は両方とも英語が翻訳された小説でした。

North:もしかしたら、そこは「読む目的や関心のあるテーマ」が関係しているかもしれないですね。自分の興味のあるテーマにフォーカスすると、そのテーマの背景を知っている分、知らない単語が少なくハードルが下がり物語に入りやすくなるのが良い点ですよね。

Akane:なるほど。多様性や環境などの社会テーマは関心があったので、そういう意味でも『兄の名は、ジェシカ』は入りやすかったのかもしれません。

North:「舞台設定」も含め、イメージできることが大事なのだと思います。Akaneさんだと、近代の歴史がお好きだと言っていたから、知っている史実をもとにした物語もよさそうですね。

Akane:海外文学を読んでみようと思ったときに、なんとなく「ベストセラーや名前の聞いたことのある物語」に手が伸びますが、自分の関心テーマを掛け算して探すというのは探し方のひとつの方法になりそうです!

North:事前知識を仕入れておくと、そこで躓かないのでより本題に集中できますし、そうやって「読むための準備」もまた楽しいはず。準備と言っても難しく考えないで、例えば海外ドラマとか美術展とか、本以外の媒体やメディアを活用するのも良いと思います。

***

本屋さんのオススメ海外文学

Akane:色々とお話し聞いた上でだと尚更、一概に「オススメ」というのも難しいかと思いますが、本のご紹介をお願いできますでしょうか?

North:はい、ご紹介したいなと思ったのは、マイケル・モーパーゴの『月にハミング』です。海外で「賞」を獲って翻訳されている本も一定以上の評価という見方もできるのですが、この『月にハミング』は5つ以上の児童文学賞を受賞していて、これはたくさんの人の目を通ってきた上に、「翻訳する価値がある」となって日本語訳されているとも言えるのかなと思うのです。

Akane:確かに、その国で多くの人に読まれたからこそ海を越えて日本にやってきているのですもんね。この本は、ざっくりとどんなお話なのでしょうか?

North:とある無人島で、言葉を発することのできなくなった女の子が発見され、その女の子がどこからやってきたのか?なぜ無人島にいたのか?というのがベースのストーリーです。

Akane:謎が深そうですね。タイトルの意味も気になるところです。

North:『月にハミング』は史実を元にした物語なのですが、この本のポイントは2つあって、ひとつは章が細かく分かれていること。28の章に分かれていて、1章あたり12,3ページ程度。なので1日1章などに分けて読んでいくと挫折しにくいと思います。

そして、もうひとつは...

Akane:作品の背景!まさかの「読むための準備」が一冊に入っている👀!

North:はい☺️ もちろん、読みながら知っていくのも良いですが、先に活用して背景を知っておくのもアリです。こういった工夫は知らない単語や土地の話をキャッチアップできて理解が深まるのでありがたいですよね。

Akane:文字もページに詰め詰めというより程よく余白があって読みやすそうです。早速読みたくなってきました!

North:読みやすさの話をしてきましたが、「分からなくても読む」という読書も私はいいと思いますし、海外文学の面白さを知ってもらえることは嬉しいけれど、一方で読まなくてもいいとも思っているんです。やっぱり、楽しいと思えることが一番だから。

Akane:そうですね、私もそう思います。選択肢としての海外文学だから、まだ手にとってない方や私のように未練(笑)のある方には是非通ってほしい道ではありますけれども、楽しい時間は人それぞれですからね!

ところで、海外文学と日本文学で違うと思うことってありますか?

North:海外文学は社会的メッセージが比較的強い傾向もあるので、そういった違いは刺激になるかもしれないですね。どちらが良い悪いではなく、一つの物事に対して物語を通して深掘りしにいくポイントが違う印象があります。

Akane:面白いですね、本の傾向としても文化や成り立ちの気配を感じます。

***

North:私は『月にハミング』の訳者の杉田七重さんも、好きな翻訳者さんの一人なのですが、Akaneさんは気になる方はいますか?

Akane:翻訳者さん自体をあまり存じ上げないのですが、金原瑞人は気になる翻訳者さんです。『月と六ペンス』も金原さんが訳されていますよね。あとは積ん読に『アウシュヴィッツのタトゥー係』があります。近況報告ブログもたまに拝見します。

North:次に読む本で迷ったら、一度読んで気に入った、相性のいい訳者さんから広げていくのもいいですね。あとは、小学館のSUPER!YAや、岩波書店のSTAMP BOOKSのシリーズはご存知ですか?海外で話題のYA作品を取り揃えたシリーズで、こちらもオススメです。

STAMP BOOKS / 左『ペーパータウン』ジョン・グリーン/金原瑞人訳 右:『タフィー』サラ クロッサン/三辺 律子訳

STAMP BOOKS / 左『ペーパータウン』ジョン・グリーン/金原瑞人訳 右:『タフィー』サラ クロッサン/三辺 律子訳

Akane:SUPER! YAの方はキャッチーで手に取りやすそうですね。はじめに手に取るならこっちでしょうか。STAMP BOOKSはエアメールみたいな装幀が素敵・・・あ!金原瑞人さんが訳している本もあるんですね。

North:そうなんです。素敵な装幀は気分があがりますよね。あと、鈴木出版さんの「この地球を生きる子どもたち」も知ってほしいのでご紹介しますね。

Akane:どんなお話なんですか?

North:いえ、これは1冊の本の名前ではなくて、海外児童文学のシリーズの名称なんです。

Akane:シリーズの名前!本のタイトルにもなりそうな素敵な名称ですね。

North:鈴木出版さんのホームページを見ていただくと分かるのですが、イギリス、アメリカだけでなく、南アフリカ、マラウイ、パキスタン、アフガニスタン、インド、スリランカ、バングラデシュ、コロンビアなどを舞台にした本があります。

鈴木出版 ホーム > 絵本・児童書 > <a href="http://www.suzuki-syuppan.co.jp/script/list.php?ctg=105002">海外児童文学シリーズ</a>より

鈴木出版 ホーム > 絵本・児童書 > 海外児童文学シリーズより

Akane:海外文学というと、なんとなく米英や、最近だとアジアの本などが増えていますが、アフリカや中東などが舞台の本はこれまで手にしたこともなくて、なんだか新鮮な気持ちです。

North:まだまだ世界地図は白い部分が多いのですが、まずは自分が知っている国や、興味がある国が舞台のYAから親しんで、そこから大人向けの本に深く掘り下げていったり、隣国の著者の書いた本を探して自分で世界を広げていくのも楽しそうです。

Akane:シリーズとしてはどんな内容のお話があるのでしょうか?

North:他のYA文学同様に、人種やジェンダーによる差別、内戦や難民、貧困や暴力などの社会的問題を扱った本が多いのですが、小学校高学年から読めるような作品ばかりなので、重たいテーマであったとしても、生々しく凄惨な描写はないですし、どこかにユーモアが含まれていたり、清々しさがあったり、エンディングで希望を感じられる作品も多くて、読み応えもあるのに読みやすい点が特徴ですね。

Akane:話としては複雑だったり、なかなか苦しい内容であっても最後に希望を感じられる内容と思うと安心します。世界地図を見ながら、興味のある国の本を手に取ってみたくなりました。今は、なかなか海外に足を運ぶことが難しいので、本で巡るのもいいですね!

North:そうですね!今だからできる楽しみ方もあると思います。

Akane:気づけばあっという間に時間が経っていましたが、突然のご相談にも関わらず丁寧に教えてくださりありがとうございました!お話を聞いていて「あれ?こんなに近いものだったっけ?」と、挫折した時のことを思い出せなくなりそうです🫢

North:そう思ってもらえたのなら嬉しいです。先にも言った通り、読書は楽しいと思えるのが一番だから必ずしも海外文学を読む必要はないけれど、海外文学やYAの世界は日本の本ともまた異なった魅力を持っているので、これを機会に知って手に取ってもらえたら嬉しいです。

Akane:私は『月とハミング』の時代の世界史に興味があって元々ある程度知っているのと、今日教えていただいた色々なポイントからも自分に合いそうな気がするので、早速買って読んでみたいと思います。本日はありがとうございました!

North:ありがとうございました!

(追記:実際に買って4月に読みました。まさにNorthさんのおっしゃっていたポイントや内容で色々考えさせられながらも希望を持って本を閉じました。これは、またいつか...😌)

***

ということで、「もしも海外文学挫折組が本屋さんに相談してみたら」どうなるかというと、「選ぶポイントを知って、読みたくなって、人にも伝えたくなる」でした✌️


ついつい盛り上がり、3時間ほどお時間頂いてしまいました。色々とお話を伺ったのですが、私のまとめ力の関係でうまくお伝えできたか定かではないのが悔やまれます。が、これにて今回は終わりとさせて頂きます!

Northさんが運営するフォンオルファース商會では、面白い・興味深い海外YAや海外ミステリ本を中心たくさんご紹介しているので、Instagramぜひフォローしてみてください✨(こちら
また、東京・下北沢のBOOKSHOP TRAVELLERさんに一箱本屋で販売もされているのでお近くの方は是非寄ってみてください🚶‍♀️


それでは、今週はこんなところで👋
どうぞ楽しいGWをお過ごしください〜!(お仕事の皆さんは、お疲れ様です🙇‍♀️)

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